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EP19「蒼き過去」

 -1/12 AM07:44 ARS本部 屋上-

 晴天の朝にも関わらず、私の心はそれと対を成すかのように曇っていた。
1月12日という日は私にとって、365日中最悪の日と言っても過言ではない。

静流「・・・・くそっ。」

 やり場の無いこの感情を、真下に見える東京の景色に投げかけている私は酷く愚かだ。
もしもこの怒りでもなく喜びでもない感情を単刀直入にぶつけられるとしたら、私は真っ先に地下へ行くだろう。
そして、そこに聳える蒼い巨体の魂にこの感情をぶつけたい。

 スティルネス。奴はその名の如く、静寂を身に纏い、私の"普通"を破壊した。

 機械相手に感情を吐く事ぐらい簡単だろうと思うかもしれない。だが事実上その普通を破壊したのは私でもある。
そして私は取り返しの付かないモノをもう一つ破壊してしまった。


 EP19「蒼き過去」


 -PM04:15 陽華高校 昇降口-

 親父の襲撃以降、リネクサスの出現は確認されず、俺たちは再び一時的な平和をかみ締めていた。
いや、福岡でこの事実をかみ締めているのは俺とレドナと鈴山ぐらいだろう。
 それだけでなく俺は御袋の事も気にかけていた。両親から裏切られ、俺は身も心もボロボロなはずなのに意外と元気だった。
親父の事もあってか、御袋と戦う決意も固まっていた。親不孝者とはこの事だろうか。
だが不幸という言葉が一番当てはまるのは俺だと"不孝"と"不幸"をかけて自分でしみじみ感じていた。
 そんなこんなで先日始業式が終り、学校が再開した。今日もみっちり6限目まで勉強し、ようやく下校の時を向かえていた。

真「暁、俺はお前に感謝しなくちゃならない・・・。」

 いきなり真が外靴を履きながら真剣な表情で話しかけてきた。

暁「な、なんだよ・・・?」
真「ウチの恵奈の事なんだが・・・。」

 そういえば、今日は以前作文の宿題をしてもらったお礼に、恵奈ちゃんと食事に行く約束をしていた。
ARSからの給料で、高級フレンチにでも誘おうかと思ったが、さすがにアレは当たり外れがある事をこの歳になって知った。
特に予約を入れたわけでもないファミレスにしようとしていたのだが、それがまずかったのだろうか。
とは言え、真は俺に感謝してくれているわけだ。その意図が若干掴みづらいのは真だからだろう。
 真はポケットから自身の携帯を取り出し、パッパと操作した。

真「このメールを見てくれ。」

 携帯の受信フォルダを開いて、送信者:高田恵奈と書かれてある合計12通のメールを俺に見せ付けた。

暁「恵奈ちゃん、どうかしたのか?」

 普段そこまで仲がよくない真と恵奈ちゃんが二桁も往復してメールをやりとりするとは珍しい。

真「適当に開いてみろよ。」

 携帯を受け取り、とりあえず最初のメールを見てみた。
 タイトルは無く、本文には「暁お兄ちゃんはこんな服装が好きかな?」と書かれてある。
下にスクロールすると、添付画像が貼ってあった。いかにも女の子らしい可愛い服を着た恵奈ちゃんが写っていた。
 何か怪しいと思い、俺は次のメールを見た。タイトルは無題、本文は「じゃあこれは?」。
これにも添付画像があり、これまた可愛らしい萌えを意識している服装の恵奈ちゃんが写っていた。
 ここまで来て、俺はようやく意味を理解した。
 急いで最後のメールを見ると、タイトル無題、本文は「じゃあコレで決まりだね!」。
添付画像はゴスロリとかいう一昔前に流行ったファッションだった。

暁「真。」
真「あぁ・・・。」
暁「お前、俺を利用して妹のコスプレ楽しんだだろ。」
真「だって家じゃこんな薄いキャミにミニスカートにニーソックスなんてはいてくれないぜ。
  ましてやゴスロリ服なんて、これは妹を妹として直視できないぜ・・・!」
暁「真。」
真「どうした、兄弟・・・。」
暁「向こう、可愛い女子生徒がいるぜ。」

 俺は校門を指差して言った。

真「マジ!?」

 真がその方向を見た瞬間、無防備になった真の尻に強烈な蹴りを入れた。

真「ぐおぉぉっ!!」

 昇降口に真の悲鳴が響き渡る。周囲にいた数人が驚いた顔でこっちを凝視した。

真「何しやがる!?」

 尻を押さえながら真が怒鳴る。

暁「お前兄として最低だぞ!」
真「じゃあお前はゴスロリ服は嫌いな・・・いてっ!!」

 ゴツンという鈍い音と共に、真が倒れこんだ。倒れた真の背後には高田が拳を作って立っていた。

小夜「も~、真!乙女の恋愛心を弄ぶなんて最低だよっ!」
真「ご・・・ごめんな・・・さい。」
小夜「鳳覇君、真は私が責任もって縛っておくから。
   恵奈ちゃんと楽しくデートしてきてね!」

 顔は笑っているものの、倒れた真の首根っこを掴む手には相当な力が入っていた。

暁「あ、あぁ・・・。そっちは頼んだ。じゃ、じゃあな。」

 ちょっとした恐怖感を感じつつ、俺はブラブラと手を振って二人に別れを告げた。
気付けば、デートと言われた事に対する否定をするのも忘れていた。

 時間の都合もあって、俺はかなりのスピードで自転車を走らせていた。すると、見慣れた背中が俺の前に見えた。

暁「おーい、レドナー!」

 レドナの乗る黒い自転車の隣に並んだ。

レドナ「靴箱での事件は丸く収まったのか?」

 どうやら、レドナにもあの喧嘩の声は聞こえていたようだ。

暁「まぁ・・・なんとかな。」

 苦笑して俺は答えた。
 そういえば、随分前の話になるが、レドナのクールさを見て真が"グラビアアイドルと付き合ったことがある"と断言していた。

暁「そういや、一ついいか?」
レドナ「ん?」
暁「お前って、グラビアアイドルと付き合ったことあるか?」

 ちょっと真面目な顔で聞いた途端、レドナが思いっきり吹いた。

レドナ「っー!な、なんだよその質問は!」
暁「いや、なんとなくそんな予感がした人物が居ただけ・・・かも。」
レドナ「じゃあそいつに伝えておけ、チャンスはあったかもってな。」
暁「なんだよそれ?」
レドナ「意味不明な質問したのはお前だろ?」

 その言葉に、俺とレドナは意味不明に爆笑していた。これが青春という物だろう。


 -PM04:56 鳳覇家マンション エレベーター内-


レドナ「俺はこの後本部に行くが、お前はどうする?」
暁「わりぃ、ちょっとゴスロリの妖精さんに冬休みの宿題の恩返しに行かないといけないから。」
レドナ「そっか、お前も大変だな。」
暁「っていっても、真の妹なんだけどな。」

 ちょうどその時、エレベーターが9Fに着いたことを告げた。

レドナ「じゃ、また明日な。」
暁「おう、じゃーな。」

 軽く手を振りあい、エレベーターのドアが閉まる前にレドナは俺の視界から消えた。
そのまま数十秒もせずに、エレベーターは10Fに着いたことを告げた。
 すたすたとエレベーターを出て、ズボンのポケットから鍵を出しながら自室を目指した。

???「あの~。」

 突然後から、女性に声をかけられた。蒼く長い髪が夕日に輝いていた。ここのマンションの人かと思ったが、見覚えが無い。

暁「はい?」
???「神崎静流って人、ご存知ですか?」

 意外な人物の名前が、その人の口から出てきた。もしかして、神崎の姉とか妹とかだろうか。
それとも、これまた意外なことに神崎の彼女だったり。

暁「えぇ、まぁ、知ってますけど。」
???「そうですか。」

 突然その女性が懐に手を入れた。

???「それでは、さようなら。」
暁「!」

 気付いたときには、すでにその女性が持つ銃に撃たれて、俺は地面にぶっ倒れていた。
胸に走る強烈な痛みに、俺の意識はすぐに吹っ飛んだ。


 -PM05:32 福岡県某所-


 俺はARSに向うため、スローペースで自転車をこいでいた。本部でのプランを頭の中で考えていると、可愛らしい少女が目に止まった。
黒いフリフリの服装のポニーテールの少女だ。その服装から、俺は一つ推測した。

レドナ「ゴスロリ・・・ってまさか。」

 俺はハンドルを90度回転させて、その少女の所へ向った。

レドナ「君、高田の妹さん?」
恵奈「うん、そうだけど・・・お兄さんは?」

 やはり当りだった。

レドナ「真と暁と同じクラスの夜城 レドナだ。」
恵奈「あ、夜城さんの事は真から聞いてます!」

 さっきまで暗かった少女の顔は少し明るくなった。

レドナ「暁、まだ来てないのか?」
恵奈「えぇっ!なんで知ってるんですかー!?」
レドナ「ん、まぁ・・・ちょっとな。」

 目をそらして、誤魔化した。

レドナ「ったく、女の子待たせるなんて最低な奴だな。」

 俺はポケットに手を入れて、携帯を取り出して暁に電話した。

レドナ「出ないな・・・。」
恵奈「暁お兄ちゃん、何かあったのかな・・・。」

 再び少女の顔が曇る。

レドナ「行ってみるか、あいつの家。」


 -PM05:42 福岡県 鳳覇家マンション-


 さすがにあの暁がこんな少女一人を置いてどこか別の所に行くとは考えづらかった。
何かしら理由があるにしろ、断りぐらいは伝えに行くはず。
 俺はさっきから嫌な予感がしていた。
 エレベーターが10Fへの到着を告げ、ドアが開く。

レドナ「暁!!」

 エレベーターを出た途端、胸から血を流して倒れた暁を見つけた。

恵奈「いや・・・いやぁぁっ!!!」

 耳が痛くなるほどの悲鳴を上げて、恵奈は気絶した。この悲鳴を上げても他の部屋から誰も出てこない。
どうやら他の10Fの住民は家に居ないようだ。逆にそれは好都合であった。
 きっと犯人は暁がドライヴァーである事実を知らない人、もしくはそうと知っていて足止めをするためにやったことか。
何れにせよ、イクスドライヴァーならばほんの数時間で回復するはずだ。
 とにかく今するべき事は2つ。俺は携帯を取り出した。

レドナ「こちらレドナ、ARSの医療班をよこしてくれ!
    鳳覇 暁が誰かに撃たれた!場所は鳳覇の家の前だ!」

 それだけ告げると、俺は通話を切り、こんどは高田に電話を掛けた。

レドナ「高田!鳳覇の家まで来い!理由は後だ!」


 -PM07:29 ARS本部 医務室-


暁「ん・・・。」

 視界に広がる真っ白な天壌。俺はもしかして死んだのか。

暁「って、俺は死なないか・・・。」

 自問自答する自分がアホらしく思えた。

明美「目覚めたかしら?」
暁「日向先生・・・俺・・・。」

 俺はここに至るまでの経緯を思い出していた。俺はあの後家に帰って、女に声を掛けられて。
思えば、なぜあの女は俺を撃ったのか。

明美「自宅前で撃たれてたらしいけど、何があったの?」
暁「分かりません。ただ、知らない女の人から神崎さんを知っているか?って聞かれて・・・。
  答えたら撃たれました。」
明美「珍しいわね、神崎君が何かの事件に絡んでいるなんて。
   でも、察するに相手はARSの事を知っている人間ね。」
暁「まさか・・・リネクサス!?」
レドナ「それは無いな。」

 医務室のドアが開き、レドナが入ってきた。

レドナ「リネクサスならドライヴァーを生身で殺しても意味が無いことを知っている。
    どうせなら自身の機体を使って、無理やりにでもお前をエイオスに乗せて殺す。」
明美「たしかに、夜城君の言うとおりね。」
レドナ「神崎が一枚噛んでいるんなら、本人に直接聞くのが手っ取り早い。」

 レドナが医務室の電話の受話器を取って、番号をかけ始めた。

明美「あ、今神崎君はARSに居ないわ。」
暁「じゃあ、今どこに?」


 -同刻 神奈川県某所-


 突然の鳳覇からのメール。しかし送信者は鳳覇で無い事は分かっていた。でなければ、この場所に私をよこすわけが無い。
海が見えるこの山頂。ものの数分で頂上まで着くこの山だが、ここまで辿り着くのには足並みは重かった。

静流「着たぞ、青葉。」
陽子「・・・・。」

 青葉 陽子、数年前に私を愛し、数年前に私を憎んだ女だ。

静流「メールを送ったのは妹の優子の方だな。」
陽子「えぇ、そうよ。
   ドライヴァー・・・だっけ、あの男の子。見つけるのは簡単だった。」

 私を空気の如く感じているかの様に、青葉は海を見つめていた。一度たりとも私の方を振り向かない。
それはそれで、私にとっては好都合であることに変わりないが。

静流「鳳覇がドライヴァーでなければ、お前もお前の妹も殺人の犯人だ。」
陽子「貴方が言えた身かしら?」

 鋭い目付きで、群青の瞳が私を捉えた。

陽子「私達から"家族"を奪っておいて。」

 やはり、振ってくる話題はこの事だった。

陽子「便利よね、ドライヴァーって人は。
   殺しても殺しても生き返る。」
静流「お前が私を痛めつける事で罪滅ぼしが出来るのなら、喜んでこの身を捧げる。」
陽子「無駄だって事はわかってるわ。
   だから・・・。」

 その言葉が終ると、地面が揺れ始めた。地震にしては規模が大きすぎる。地面に亀裂が走り、周りの木々がばたばた倒れていく。
亀裂から抜け出すように、5機のエインシードが現れた。それとは別にもう一機、2機のエインシードに支えられた赤紫の機体。
青葉はエインシードの手に乗り、その赤紫の機体へと乗り込んだ。

陽子「貴方を完全に殺してやるわ。
   ドライヴァーの正しい殺し方でね!!」
静流「くっ・・・!やむを得ん、スティルネス!」

 私は右手を高らかに挙げ、上空を見上げた。窮地に陥っている私の頭上に広がる円陣。その中心から蒼き稲光が落ちる。
その稲光は私の後に着地し、地面を大きく揺らした。スティルネスの手に乗り、私も自機に乗り込んだ。
 奴がエインシードに抱えられて出てきた事から、間違いなくあれは機人であるはずだ。
ならばスティルネスで十分に対応できる。

陽子「化けの皮を剥いでやるわ!」

 青葉の乗る機体の両腕のハンマーがスティルネスを直撃した。よろけたスティルネスに5機のエインシードが襲い来る。
一斉に放たれるマシンガンの攻撃に、スティルネスはそのまま地面に倒れた。


 -同刻 ARS医務室-

レドナ「にしても、なんで神奈川なんだ・・・?」

 レドナは顎に手を当てて、思い当たる節を捜しているようだった。

暁「誰かと待ち合わせ・・・とか?」

 馬鹿でも考え付きそうな事を俺は言っていた。
その時、医務室の電話が鳴った。2秒後、すぐに日向が受話器を取った。

明美「はい、こちら医務室です。
   ・・・・えぇっ!?神崎君が!?」
暁「先生、何かあったんですか?」

 俺は寝ているベットから起き上がり、尋ねた。

明美「スティルネスがサモンされたらしいわ。
   場所は神奈川よ。」
レドナ「何!?」
暁「えっ!?」

 日向は再び受話器に耳を当て、向こうの話を聞いた。会話が終ると、日向は受話器を置いて俺たちに指示した。

明美「エインシード5機と未確認機一機と交戦しているそうよ。
   夜城君は急いでハンガーへ向って。ディスぺリオンは今ガルーダに搭載してあるそうよ。」
レドナ「了解!」

 レドナが勢い良く部屋を出て行った。

暁「先生、俺は!」
明美「まだ傷が完全に治って無いわ。
   病み上がりが一番危ないんだから。」

 そう言いながら、机の中から小瓶を取り出した。

明美「もしもの時の痛み止めよ。」
暁「これは?」

 恐る恐る俺はその瓶を受け取った。白い錠剤が数個入っている。

明美「どうせ止めても行くでしょ?」
暁「さっすが先生!」

 俺はその小瓶をポケットに入れて、靴を履いた。

明美「無茶はしないでね。」
暁「了解です!」

 靴紐を結び終えると、俺は軽く手を振って急いで部屋を出た。


 -同刻 リネクサス巡洋艦 ギルバウス内部-


ナーザ「何故エインシードがあそこに?」

 画面に映る戦闘を見て、ナーザが言った。

エルゼ「どうやら、我々の機体は駒に使われているようだね。」
ナーザ「排除しますか?」
エルゼ「必要ないさ、スティルネスが消えてくれることは我々にとっても好都合だ。
    それに・・・。」

 エルゼはレーダーに映る別の機影を指差した。

エルゼ「この世は本気で私を楽しませてくれるようだ。」


 -PM07:42 神奈川 山中-


静流「さすがに限界か・・・。」

 スティルネスの各部をチェックするが、主要部分を除いて外部装甲は壊滅的なダメージを受けていた。
背部のブースターも一つ落ち、刀も一本粉砕している。

陽子「あははっ、死ぬのが怖くなったの?ドライヴァーのくせに。」
静流「私は・・・。」

 自分の過去に蹴りを着けなければならない。断罪、それを成し遂げるための力を解放しなければならないのか。
青葉の両親を奪い、俺の未来を奪ったあの力を。

陽子「ん・・・?」

 突然青葉がレーダーを見た。

兵士A「隊長、未確認機が4機こちらに向ってきています!」
陽子「未確認機・・・?」

 敵の会話を傍受しながら、私のスティルネスにも映るその機影の来る方向を見ていた。

静流「・・・。」

 暗がりかかった空に、白いカラーの機体が4機現れた。色彩はアルファードに酷似しているが、姿は全く違う。
ARSの資料にも無かった機体だ。

???「各機、作戦コードアルファ。」

 女の声に、4機は散開しつつ降下してきた。

陽子「こっちも応戦するわ。」

 青葉の機体がハンマーを構える。しかし、次の瞬間にはそのハンマーは粉々に砕けていた。

陽子「何!?」
???「降伏してください!」

 さっきの作戦指示をしていた奴がのる機体が、青葉の機体に両手で構えるライフルを発砲した。
エネルギー量からして、実弾ではなく圧縮ビーム粒子の弾丸のようだ。

陽子「バリアフィールド展開!」

 赤紫の機体の周囲にビームの膜が出来る。それは新手の放つビームの弾丸を相殺していた。

???「火力をあの機体に集中!」

 その声と共に、四方から一斉にビームの弾丸の嵐が巻き起こった。気付けばすでにエインシードの姿は一切無かった。
変わりに煙を上げて黒こげになっている残骸がごろごろ転がっていた。

陽子「くっ・・・!覚えてなさい、神崎!」

 片腕に残ったハンマーを地面に叩きつけ、砂埃を上げた。その隙に赤紫の機体は飛翔して、海の方へと逃げて行った。

静流「そこの所属不明機、援護感謝する。」

 私はとりあえずコンタクトを取ろうと、新手に呼びかけた。

???「スティルネス、機神のクセに無様な姿ですね。」

 どうやらこの口ぶり、政府側の部隊のようだ。我々に対する敵対心の表れだろう。

???「貴方を国家反逆罪で処罰します。」
静流「何だと!?」
???「今の機体は我々政府が所有する騎神(ナイトノイド)、マタドールです。
    それを貴方は迎撃しようとした。」
静流「ならばなぜエインシードが?」
???「あれは我々が捕獲した者です。今回はここでマタドールと、この量産機セイヴァーをテストをするためにここに置いていました。」

 どうやら、私は罠にはめられたようだ。そういえばあのエインシードはいつもと戦闘能力が違った。
それにこの女の声、今更になってだが聞き覚えのある声であった。

静流「姉妹揃ってこの舞台を演じたわけか、青葉 優子。」
優子「模擬戦に乱入したのはあなたの方です。」

 優子の駆るセイヴァーと名乗った騎神がこちらに近づいてくる。

優子「罪を受けてもらいます。」
暁「神崎さんっ!!」

 見上げた私の視界に、白銀の翼を広げたエイオスが入った。

-

暁「次元斬!!」

 スティルネスの目の前にいる新型の真横に太刀の先端が現れる。

優子「この距離で!?」

 咄嗟に向こうも攻撃をかわし、スティルネスから離れた。このタイミングを逃さないようにガルーダに指示を出す。

暁「敵を離した!今だ!」
雪乃「確認したわ。ディスペリオン、ルージュ降下!」

 俺の声と共に、ガルーダの側面からディスペリオンとルージュが降りてきた。ルージュはそのままスティルネスの所へと向って回収作業に映った。
ディスペリオンはルージュの隣に降り立ち、付近に居る他の3機を相手に大剣を振るった。

結衣「スティルネス固定完了、ルージュとディスペリオン帰還します!」

 ルージュとディスペリオンはスティルネスを抱えて飛び立った。

レドナ「暁、向こうは任せた!」

 作戦通り、2機はスティルネスを回収してガルーダへと戻っていく。その間に俺は敵4機を引きつける作戦へと移った。
予想通りに4機はルージュとディスペリオンを狙ってきた。だがエイオスがそれを許さない。

暁「離れやがれ!」

 近づきそうだった1機に次元斬を入れる。左腕が落ち、バランスを崩して地面に着地する。

優子「2機はあの三本角を引き付けてください。
   私がスティルネスを撃ちます。」

 2機の新型がエイオスに向ってくる。羽を高機動モードへと変形させ、エイオスを2機に突撃させた。
ちょうど接触する寸前、新型が腰から小さい棒を取り出した。その棒の両端からビームの刃が現れる。
近接戦闘用の剣である事はすぐに理解できた。むしろそのアクションを俺は待っていた。
 エイオスの移動する向きを90度曲げ、真上へと飛んだ。2機が振り下ろす剣は空振りする。

暁「はぁっ!」

 真上から両手の太刀を振り下ろす。先端は2機のバックパックを切り落とし、飛翔不可能な状態にさせた。
飛べなくなった2機は森の中へと落ちていった。

暁「残るはお前だけだ!」

 ガルーダに戻る3機を追いかける残り一機をロックオンした。高機動状態のエイオスはものの3秒足らずで新型の真後ろまで近づいた。

優子「早い!?」
暁「次元――。」
陽子「優子、下がって!」

 突然の衝撃。見るとエイオスの左腹部の巨大な刺々しい鉄球が叩きつけられていた。その鉄球のチェーンの先には赤紫色の機体があった。

優子「ありがとう、姉さん。」
陽子「優子は向こうを追って、こっちは私がするわ。」
暁「させるか!」

 エイオスの羽を最大限に広げる。6枚の羽が光り輝く。

暁「エイオシオン・・・。」

 羽から放たれる6つの光がこのエイオスの周りを取り巻く。夜の闇をこれでもかと言うほど引き裂いていく。

暁「ノヴァァッ!!」

 光は爆発し、周囲を真昼の如く照らしあげた。

雪乃「鳳覇君、収容を完了したわ。」
暁「了解!もう少しこの光で止めておきます!」

 俺はあえてノヴァを攻撃として使わずに、目くらましとして使用していた。
さすがにここでノヴァを放つと街に被害がでる。

陽子「攻撃が来ない・・・?」
優子「姉さん、あれは目くらましです!」

 赤紫の機体がこちらに接近してくる。

陽子「そんな小細工が!!」
レドナ「通用する。相手が素人ならな。」

 相手が投げて来たハンマーを漆黒の大剣が受け止めた。一緒に光の中に隠れていたディスペリオンだ。

レドナ「今だ!」
暁「おう!」

 ノヴァを解除し、再び太刀を構える。

暁「次元斬!!」

 振り下ろした太刀の先端は、赤紫の機体のバックパックを切り裂いた。

陽子「しまった・・・!」
優子「姉さん!!」

 落ちる機体を残った量産機が回収した。

レドナ「戻るぞ、暁。」

 ガルーダへと進路を取るディスペリオンの後を俺も追いかけた。


 -PM08:14 高田家-

恵奈「ん・・・。」
真「お?やっと起きたか。」
恵奈「真・・・。
   あぁっ!あ、暁お兄ちゃんが!」

 起きた早々恵奈は金切り声を上げた。

真「暁は大丈夫、足滑らせてこけて気絶しただけらしい。
  出血もたいしたこと無いから心配すんな。」

 レドナから大体の事情は聞いたが、恵奈には本当の事は俺からは話せない。
レドナに言われた通りの言い訳をして、この場を乗り切った。

恵奈「そうだったんだ・・・。」

 ほっとしたような恵奈の顔を見て、俺も一安心した。

真「何か食うか?まだ食べてないだろ?」
恵奈「う~ん、じゃあ菓子パンがいいな~。」

 なんと贅沢なと一瞬思ったが、ここは可愛い妹のためだ。

真「りょーかい!じゃ、ちょっとコンビニ行ってくるぜ。」

 俺はそういって恵奈の部屋を出た。ドアを閉めて、自分の部屋から財布を取る。

真「はぁ・・・初任務蹴っちまったな。」

 俺は財布の横に置いていた着信履歴の多い携帯を見て呟いた。
 1時間近く前に召集の連絡が留守電にあったが、俺は倒れた妹を放っておけずにいた。
日本を守るよりも、俺は妹を優先したんだ。これは兄としては正しい選択だ。
 なんだかんだで俺はかなり満足した気になっていた。

真「ま、明日謝ればいいか。」

 軽い気持ちで俺は財布をポケットに入れ、自宅を飛び出した。


-EP19 END-


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